世界でブランドをロンチするために。日米の“感性”をつなぐ仕事

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「日本のブランドが海外市場でなぜ成功しづらいのか?」
「優秀な日本人クリエイターが、なぜ世界に出られないのか?」

この問いに、私は実体験をもとに答えることができます。

私は日本で15年、コピーライターとして広告を作ってきました。そして2004年にアメリカ・ロサンゼルスに拠点を移し、以来21年間、日米、そしてグローバル市場に向けた広告・広報コンテンツをつくってきました。両方の文化に深く根を張って仕事をしてきたからこそ、見えるものがあります。

「日本人の思い」を世界に届ける翻訳者として

たとえば、トヨタ・プリウスプライムのグローバルロンチ。私は愛知県・豊田市の技術本部で、現地の技術者や担当者たちから、熱のこもったブランド哲学を聞きました。100%日本発の想いです。

その思いを、どうアメリカを含む世界に“伝わる言葉”で届けるか?私が担ったのは、「クリエイティブ・トランスレーション」でした。単なる翻訳ではありません。心の翻訳です。

同じように、オリンパスのOM-D E-M1 Mark IIIのグローバルローンチでも、東京本社の日本人マーケティング担当者から、職人魂あふれるブランドの哲学を聞き出し、アジア・欧米のユーザーに響くストーリーへと仕立て直しました。

私が書いたブランドムービーや製品カタログは、英語・中国語・韓国語を含む6カ国語に翻訳され、全世界で展開されました。

「日本的すぎず、欧米的すぎない」コンテンツこそ、グローバルである

グローバルコンテンツの真の価値とは何か?それは、“各国版をつくらずに済むこと”だけではありません。

日本的すぎず、欧米的すぎず、でもパワーを失わずに、頭(理屈)と心(感情)の両方を動かす——そんな「ちょうどいいバランス」を取れるコンテンツこそ、本当の意味でグローバルに通用する武器になるのです。

私は、トヨタやオリンパス、MS&ADホールディングスなどで、そういった「世界と対話できるコンテンツ」をつくってきました。

でも、世界を見渡しても、競合他社が同じことをやっているとは思えません。なぜなら、できる人が、実はほとんどいないからです。

なぜ、日本人クリエイターは国境を越えられないのか?

スーツケースを持った日本人クリエイターが滑走路を歩くシーン。海外進出と挑戦を象徴。

日本には、才能あるクリエイターがたくさんいます。広告賞を受賞している人も多い。ですが、その作品が実際にグローバル市場で“使われている”例は、ほとんど見たことがありません。

なぜか?

彼らの多くは、「海外で暮らしたことがない」からです。短期の滞在や海外勤務ではなく、10年以上、現地の空気の中で働き続けた経験。それがなければ、“感性の翻訳”はできません。

知識は勉強できます。でも、感性は勉強では身につかない。肌で感じ、骨に染みるように、時間をかけて吸収するものです。

私は、日本でコピーライターとして15年働いたあと、アメリカで一からやり直しました。キャリアを日米で「半分ずつ」積んでいる日本人クリエイターは、今も非常に稀です。

映像ひとつとっても、これだけ違う

MS&AD のインドでの「マイクロインシュアランス」活動を紹介。グローバルに伝わるように色味の選定にこだわっています。

日本向けの映像と、アメリカ向けの映像。その違いを、最初に実感したのは「黒」の色味でした。

日本の黒は「ゼロ」。データのない黒。アメリカの黒は「データのある黒」。
理由はわかりませんが、目の色の違いかもしれない。2004年、まだ映像がフィルムだった頃、初めてアメリカでカラーグレーディングしたとき、その差に私は驚愕しました。

映像構成もまったく異なります。

  • 日本の映像:足し算。カラフルで情報過多。パンフォーカス。秋葉原や渋谷のスクランブル交差点の映像を思い出してください。
  • 欧米の映像:引き算。伝えたい要素に集中し、色も情報も削ぎ落とす。誰にでも伝わる、ミニマルな構成。

欧米では、色、光、フォーカス、すべてを使って「何を伝えたいか」を明確にして、それ以外のものを排除していきます。

日本の映像は、足し算によって世界観を構築していく。色味はビビッドで、複数色が使われることが多い。鮮やかできれいなものが好まれます。肌色は肌色らしく、赤は赤、青は青です。欧米のように「赤い色を青く見せる」ような照明の使い方はしません。

このギャップを理解しないまま、欧米のブランドが日本市場に参入、または日本のブランドが欧米市場へ参入すると、どうなるか?コミュニケーションがすれ違います。ノウハウや商品はあっても、「感性の翻訳」ができないから、ブランドが根付かないのです。

太平洋に“感性の橋”を架ける

太平洋を横断する未来的な光の橋。日本とアメリカの創造的な架け橋を表現。

日本とアメリカ。かつては敵同士だった両国が、今では最も強いパートナー関係を築いています。でも、クリエイティブの世界では、まだ共有できていないものがたくさんある。個人的には、中国のほうが欧米の感性に近いと思うほどです。

この“感性の海”に、橋を架けたい。

それが、私がこの21年間、米国でクリエイターとして生きてきた理由です。

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