
かつて、広告とは「良いものを、良く見せること」だと考えられていました。しかし、経済がグローバルに統合され、モノやサービス、感情すらも国境を越えてやりとりされる今、「良いものを良く見せる」だけでは、もう十分ではないのです。「感性の翻訳」、相手の文化や価値観に合わせて「伝わる表現」に変換する力が、最も重要です。
目次
Toggleなぜ、日本の商品は「そのまま」では通用しないのか?

たとえば、日本で大ヒットしている商品があるとします。高機能で、デザインも良く、価格も手頃。そして何より、日本の消費者から強い支持を受けている。では、この商品をそのままのパッケージ、キャッチコピー、広告ビジュアルで海外に持ち込めば、同じように売れるでしょうか?
答えは、「NO」。
たとえ機能や品質が同じでも、受け手の文化や価値観、日常生活の文脈が異なれば、商品に込めたメッセージは正確に伝わらないのです。
たとえば、乳酸菌飲料「カルピス」。健康にもよく、味もおいしい。しかし英語圏では、「Calpis」という発音が「Cow Piss(牛のおしっこ)」に聞こえてしまい、名前だけで敬遠されてしまいます。
これは笑い話ではありません。いくら効能を論理的に説明しても、「気持ち悪い」で終わってしまう。
人は「好き」でしか、モノを買わない
人が商品を手に取るとき、最終的にその行動を決めるのは、「頭」ではなく「心」です。
いくら機能が優れていても、「好き」と思えなければ、財布の紐は緩みません。つまり、購買の原動力とは「好きかどうか=感性の領域」なのです。
良いネクタイはありません。あるのは好きなネクタイだけ。
だからこそ、異なる文化圏で商品を展開する際には、相手が“好きになってくれる形”に通訳する必要がある。つまり、感性を翻訳するのです。
名前を変えれば、売れる可能性が生まれる

これは名前ひとつとっても、非常に重要なポイントです。
たとえば、ミスタードーナツが開発した「ポン・デ・リング」。もちもちした食感で、日本では爆発的な人気を誇るドーナツです。しかし、その名前を英語圏の人が聞いても、意味がまったくわかりません。
ところがこの商品を試食したアメリカのドーナツ店主が、まったく同じような商品を「Mochi Donut(もちドーナツ)」という名前で販売したところ、ハワイで大ヒット。やがて全米で広がり、今ではMochi Donutはアメリカの定番スイーツのひとつになっています。
もしミスタードーナツが「もちドーナツ」として海外展開していたら、その市場は彼らのものだったかもしれません。言葉を変えるだけで、市場を失うか、獲得するかが決まるのです。
RXBARの大胆すぎる感性翻訳
プロテインバーの「RXBAR」は、感性の翻訳が大成功した事例です。
もともとのパッケージは、ブルーベリーの写真と、わかりやすいロゴ、12gのプロテイン量が明示された「よくあるデザイン」でした。品質も高く、内容も優れていたのですが、他の多くのバーと棚で並ぶと、見た目で差がつかず、埋もれてしまった。
そこで彼らが選んだ戦略は、真逆の方向。あえて、「情報を削る」ことでした。
新しいパッケージでは、写真をなくし、ロゴも小さく、フレーバー名も目立たず、プロテイン量も控えめに表記。
その代わりに、前面に大きく書かれたのは:
3 Egg Whites
6 Almonds
4 Cashews
2 Dates
No B.S.
つまり、「これは何でできているか」だけを、ストレートに、そして大きく表現したのです。成分の内容がそのまま、商品の「コピー」になったわけです。そして、その含有物はすべて、顧客が「身体に良い」という印象を持つものだったのです。
このデザイン変更によって、商品は全米で爆発的に売れ、600万ドル(約9億円)をあっという間に売り上げました。内容はまったく同じでも、伝え方を変えただけで、人の心は動くのです。
DON’T BUY THIS JACKET:パタゴニアの逆説広告

同じく感性の翻訳が効いた例として、アウトドアブランド「パタゴニア」が展開した広告キャンペーンがあります。
全面に自社のジャケットの写真を載せ、その上に堂々とこう書きました。
DON’T BUY THIS JACKET
(このジャケットを買わないでください)
日本の企業では絶対に採用されないでしょう。しかしこれは、「環境に配慮する」というパタゴニアの企業哲学を、明確に伝えるものです。
「買う前に、本当に必要か考えてください」「リペア、リユース、リサイクルを推進したい」という企業哲学をアピールし、同社の姿勢に共鳴する顧客との絆を強めることに成功しました。今までパタゴニアの顧客でなかった人も、この広告によって、パタゴニアのファンになったのです。
商品性能ではなく、思想や価値観で選ばれるブランドへと昇華させた、まさに感性翻訳の勝利です。
感性を翻訳して、ブームをつくる

感性を翻訳して世界市場を席巻した商品は他にもたくさんあります。
「紅茶キノコ」→ KOMBUCHA
健康志向のトレンドと結びつき、世界で1700億円市場に。
「抹茶」→ MATCHA
“日本っぽさ”と“健康”のイメージが重なり、Matcha GirlyというSNSムーブメントも誕生。
「和牛」→ WAGYU
いまや高級肉の代名詞に。
これらはどれも、言葉・意味・情緒を彼らの感性に合うように通訳した=感性の翻訳によって、文化の壁を越えた成功例です。
感性の翻訳は、理屈では決められない
そして、最後にお伝えしたいのは、感性の翻訳とは理屈では決められないものだということです。ロジックや資料では説明が難しく、「なんかこっちの方がいいよね」という、直感に近い判断が求められます。
それを企業内で意思決定するのは、日本企業にとって最も苦手な分野。ほとんどが「サラリーマン」という上意下達の世界での意思決定では、ほぼ無理かもしれない。しかし、失敗のリスクを最小限にし、経費を最小限に抑え、売り上げを最大限に伸ばすための、最短の方法は、言葉と文化が異なる世界で「通じる」表現を選び、広げていくことと、私は思います。
まとめ:感性を訳せば、売り上げが変わる

あなたの会社がもし、世界市場に打って出たいと考えるなら、最初に検討すべきは商品そのものではなく、「その魅力をどう翻訳するか」なのです。
そして、「何を言うか」ではなく、「どう感じさせるか」が問われる時代には、翻訳するのは「意味」ではなく「感性」でなければなりません。
世界とつながるとは、言葉を超えて、心で通じ合うこと。その最初の一歩が「感性の翻訳」なのです。
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